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ためらいのリアル医療倫理 [好きな本]

医者という職業には移動と引っ越しがつきものです.

一つの職場で長く働き続けるというのは珍しい事で
何年か毎にいろいろな病院に移動というのが良く聞かれる話でした.

最近は医療崩壊の影響もあって大学医局人事とは関係なく
移動される先生もいらっしゃって状況は様々だと思います.

かく言う私も、これまでにいくつかの病院を経験してきました.

ちょうど自分の医師としての経験値の上昇と平行して
職場を変わっていったんで、幼稚園(1年目研修医)から始まって
小学校、中学校、高校そして大学という風に
徐々に進学するように、自分のスキルアップと職場移動が重なってます.

職場環境が変わると、最初はよそ者(アウトサイダー)のような感じで
新しい職場のやり方や新しい人間関係になれるまで
そっと時にためらいながら過ごす事になります.

細かい仕事の段取りとか病院毎に違うので戸惑いは大きいです.

例えばいきなり新しい電子カルテを使わなければならない時に
慣れるまでは、けっこう疲れます.

薬剤や点滴もジェネリック系で、使い慣れているものがなくて
その病院毎のものを覚えなければ仕事になりません.

病院毎の、つまりは指導的立場にある上級医師たちの
医療観もしくは医療倫理のようなものが、それぞれの施設で
微妙に異なるので、これが一番重要かもしれません.

極端な話、三次救急病院と老人病院、慢性疾患が中心の病院では
流れる時間も患者層も違ってきて、そこで働く医療スタッフの感じも
微妙に変わってくるわけです.

中堅と呼ばれる世代になってからは、それなりに自分のスタイルや
自分なりの経験や医療観があって、それを変えるのは難しいです.

延命治療や終末期治療についても、それぞれの先生毎に
やはり微妙な温度差があるものです.

患者さんそれぞれに個性があるように、医師にも個性があるので
全く同じというのは難しいのですが
長く仕事を続けるのであれば、やはり同じような、同じにおいのする
似通った医療観を持つ先生と一緒に仕事をしたいものです.

幸いに今の所は、長く一緒に仕事をしてきた気心の知れた
ベテラン内科医とともに過ごしており、それは安心できるところです.

キーワードは「ためらい」です.


ためらいのリアル医療倫理 ~命の価値は等しいか? (生きる技術!叢書)

ためらいのリアル医療倫理 ~命の価値は等しいか? (生きる技術!叢書)

  • 作者: 岩田 健太郎
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2011/09/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



岩田 健太郎先生の御諸作です.最近、岩田先生の本はけっこう
読ませていただいていて、私のロールモデルになりつつあります.

延命治療をすべきか否か、人工妊娠中絶は正しいか正しくないか
そんなイエスかノーかの二者択一をせまる命題は、医療の現場には
そぐわないのではないか、とこの本に書かれてあります.

 「我々のとるべき態度とは、白か黒かの二元論から離れ
  ためらいの口調で静かに対象と向き合うことではないか」

私たちの医療の現場では確かに、すぐに白黒つけるような二者択一論法では
物事がどうにも進まないようなことがあると思います.

岩田先生のとかれる「ためらい」の医療倫理は
私の日常感覚からはしっくりとする感じを受けました.

 「成功率10%の心肺蘇生は行われるべきか」

この命題をなんのためらいもなく答えられる人にはこの本は
必要ないかも知れません.

でも私を含めてリアルな医療現場で日々神経をすり減らしている
医療スタッフには、理屈で正否の決断が出来ない難しい医療的問題に
どのように向かい合えば良いのか、そのヒントが沢山詰まった本です.

私と同じように皆さんが、この本を気に入っていただけるとうれしいです.

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Yamapon

現場では理屈だけではどうにもならないことが多くて、スタッフの疲弊感も大きくなってきています。
これでいいのだろうか、今やっていることは本当に自分がやりたかったことなのか。。。患者さんにとって良かったのか。。。

常に自問自答.... 答えはなかなかみつかりません。

悩みは尽きません(笑)。

それでも何とか続けていけるのは、同じ考え方を持ったドクター、コメディカルがいるから。とはいえ、私も転職してきたばかりなので、発言や行動に関してはかなり遠慮しております(笑)。。
先生の記事を拝見するたびに背筋が伸びるような気がします。
いつもありがとうございます!
by Yamapon (2011-10-31 14:31) 

yangt3

>Yamaponさま、コメントありがとうございます.
私にとっては同じ志をもつ先生方の存在が
そして日々の交流が勇気になっています.
これからもよろしくお願いします.
by yangt3 (2011-11-02 20:53) 

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